母の納骨で秋田市に帰郷した

秋田市 千秋中島町

この場の空気の匂いを嗅げ、この風景の鼓動の音を聞け、ここを通る風を感じよう。

しかし心を止めてもなにも感じないし何も聞こえない、むしょうに寂しさがつのるだけだった。

 

何十年ぶりかで生まれ故郷の秋田に帰った。母の納骨と従兄弟のへっちゃんの供養のための帰郷だった。ついでに幼馴染が中島で生活していれば会ってみたかったし、ふるさとの中島の様子が今どうなっているか見てみたかった。

雨がやんだ朝の6時頃ホテルを出て町を流れる旭川沿いに中島に向かった。薄暗い道を子供の頃の記憶を思い出して歩いていった。ところどころの家や建物は変わっていたが道自体は変わらず迷わずに歩いていけた。しかし早朝でしかも雨上がりで曇っているからなのか人がまったく歩いていなかった。子供の頃に住んでいた家は今はなく、その場所に従兄弟が新しく建てたという家があった。子供の頃あった近所の家もみな新しくなっている。ひととおり町内を歩きまわっていると雨がふたたび降ってきたのでいったんホテルにもどることにした。

納骨をおえてその足でふたたびお寺から歩いて中島にむかった。子供の頃を思い出し、だいたいの方向に歩いていくと中島の近くにきた。また旭川のこんどは反対側の土手を歩いた。道は子供の頃とまったく違っていなかった。子供の頃によく来ていた鉄橋が見える橋の上でまわりの風景を見てみた。川の位置、鉄橋の位置,家々の建っている位置はだいたい子供の頃とおんなじだが風景の雰囲気が違う。天気のせいなのかなにかわびしい。なにかパットしないなと感じた。しかも人が歩いていない。また生まれた家の近くに来て幼馴染が住んでいた家の玄関で声をかけても家のなかから犬の吠える声が聞こえるだけでなかからだれもでてこなかった。ふたたび町内をまわってみたが家のなかから人の声は聞こえずひっそりしている。昔の子供の頃は町内はもっとにぎやかだった気がする。誰とも会えずしかたがないので裏道から千秋公園まで歩いて行くことにした。きつい階段を登って千秋公園のお城にむかって歩いていたが途中で空車のタクシーが止まっていたので、早めに東京に帰ろうと思い秋田駅まで乗って行くことにした。秋田駅はにぎわっていた。結局にぎやかで人がいるのは秋田駅とそれにつづく広小路だけだった。

ひさびさに行った秋田は思っていたとうりわびしくてさみしい田舎町だった。いまでは幼馴染もつきあいのある親戚もいなくなってしまった。もう秋田に行くことはないだろう。しょうがないことだ。